調査レポート

商品コンセプト開発のツール“CORE”②

2.生活行動モデルによる欲求構造へのアプローチ

 人びとの選択的行動がどのようなメカニズムで行われるかについては、これまで数多くの研究者が考え方を図式化してきた(1)。
 これらのモデルの具体的内容とそれぞれの批判に関しては本稿が目的とするところではないので、ここでは代表的なものを提示するにとどめておきたい。われわれはこれらの諸研究を発展的・批判的に検討しながら1つの生活行動モデルを開発して、欲求構造分析の意味と位置づけを明らかにしたつもりである。図3はそのシステムを示したものである。

図3 生活行動モデル

 煩雑さを避ける意味で内容の説明は省略するが、われわれのこのシンプルなモデルは人びとの生活行動を理解するキイ・ファクターを整理している点で実際的であると考える。
 ところで、人びとの“ライフスタイル”は、最終的には選択的行動に顕われた個性差であるといえる。したがって、それは環境と行動の間にある人びとの反応システムの差として問題になるわけである。従来のライフスタイル研究は、なぜかこの反応システムの中心にある“欲求”をブラックボックス化しているのである。

ライフスタイル分析における欲求構造のとらえ方

生活行動システムのどの要素によって人びとの行動をとらえようとしているのか、という視点から従来のライフスタイル・アプローチをレビューすると、生活環境・行動実態など、見えやすい要素によるアプローチから見えにくい要素である意識態度すなわち心の構造によって生活者をとらえようとする方向への流れを読みとることができる(図4参照)。

図4 ライフスタイル分析手法

 周知のとおり、性、年令などのデモグラフィック特性や、社会的地位、収入など生活環境要素からのアプローチでは、生活者の多様化する行動の違いを説明することができなくなってきている。
 また、商品の使用や消費行動など結果としてあらわれる行動からのアプローチによってとらえられるニーズは、現象的であって、インプルーブ型のコンセプト開発には有効であるが、ここから新しい革新的なコンセプトを引き出すことは難しい。
 そこで生活環境と生活行動に介在する反応のシステム、すなわち心の構造の違いによってライフスタイルをとらえようとするアプローチが行われるようになった。社会的価値観、生活における志向のパターン、嗜好の態度など欲求のまわりにある社会的感性、嗜好的感性のあり方によって生活者をとらえようとしているのが従来のアプローチである。
 これらのアプローチは、生活者をクラスター化するための尺度の設定が、事後的または恣意的であり、定量化、時系列分析の面で、共通の課題を残している。
 これらのアプローチに対し、SRIで開発された“VALS”は、社会的意識態度のあり方にデモグラフィック特性を加えて米国人を9タイプに分類している。
 VALSは、デモグラフィック特性にウエイトをおいたことにより定量化がしやすくなり、社会的成層化が顕著である米国において新しい有効なアプローチとして注目を集めている。

ポテンシャル・ニーズをとらえる

 これからのライフスタイル分析は、生活者の精神的欲求のあり方をとらえることが最大の課題であり、欲求の構造によってターゲット化を行うものでなければならないと考える。そのためには図3の生活行動モデルにおいて、行動の選択基準となる欲求をポテンシャル・ニーズとしてとらえ、そのあり方をもってターゲットとすることが最も有効なアプローチであると考えられる。この点は従来の研究では十分に行われていない部分なのである。

マズローでは欲求の実態を解明できない

 欲求とは何か、についての古典的な定義はマレー(Murray,H.A)によって与えられているが(2)、それによれば“行動を一定の方向に体制化する力”として理解できる。このような欲求が人びとの心の中に欲求群として存在し、重層的な構造体になっているとする考え方が一般的である(3)。こうした考え方に対して、欲求の充足には序列があり、したがって欲求には発展段階がある、とするのが有名なマズロー(Maslow,A.H.)の「欲求発展段階説」である。しかし、マズローの理論は、その後多くの研究者によって実証的な検討がなされたが、ほとんどの研究が否定的な結果を報告しているのである(4)。
 以上のような背景から、われわれは欲求を構造体でありながら刻々とその形態を変える運動体として理解する立場に立つのである。ではそれはどのような構造体であり、どのような運動体なのだろうか。
 それを実体化するために、次のような研究作業を行った。

  1. 欲求構造を決定する社会的基本要因の確定
  2. 欲求構造を決定する個人的基本要因の確定
  3. 上記の諸要因が形成する空間における欲求の性格づけ
  4. 心理学者によって提示されている欲求リストの再編成およびそれらと③の整合性のチェック
  5. 基本欲求因子の確定とそれらのポジショニング
  6. 基本欲求因子の記号化
  7. 消費者調査による基本欲求因子の定量化

簡単にそれぞれの考え方を説明しておきたい。

  1. 欲求構造を決定する社会的基本要因の1つは、文化人類の諸成果から混沌-秩序という概念を採用した。
    この要因軸が人間の文化創造を規定するものであるから(5)、この要因軸を採用するのは妥当であると考えられる。もう1つの要因は、社会関係の強度を示す軸として、顕在-潜在という概念を採用した。
  2. 個人的基本要因としては、対人関係を規定するコミュニケーションの強度を示す軸と、情緒の律動性を示す軸を設定し、前者をコミュニケーション軸、後者をモビリティ軸とした。
  3. 以上の諸要因が形成する関係の分析により、われわれは理論的には4つの基本欲求を確定し、それぞれを「参加欲求」「変動欲求」「自由欲求」「安定欲求」と名づけた(図5参照)。

    図5 欲求の基本構造

     なお、この基本分類には、最近多くの論者によって提唱されている「快適性の欲求」と「合理性の欲求」は含まれていない。「快適性」は欲求充足のプロセスで人びとが感じる知覚的なものであって、それ自体は基礎となる欲求ではなく、また「合理性」は貨幣に対する欲求と同様な意味で、主欲求を満たすための手段欲求であると考えるべきではないだろうか。

  4. マレーが作成した欲求リストには36の欲求が示されているが、それらを上記の基本欲求と照合・整理して図に示された12の欲求因子を決定したのである(6)。
  5. 以上の諸要求をポジショニングしたものが図5である。
    以後の作業については後述するが、こうした研究作業によって、それ自体は目に見えない人間の欲求を実体化し、同時にその構造・動態を個人・社会のいずれからも把握できる枠組みが完成したと考えるのである。

ターゲットとしての欲求構造は15に類型化できる

人びとの心の中には12の欲求因子が、それぞれ異なる重さと異なる形で配列されている。それらの形態の差が人びとの欲求の個人差として行動の差をもたらすから、このようにして構造化された欲求を「ポテンシャル・ニーズ」と名付けることができよう。
 いま一定の手法で欲求因子の相対的な大きさを測定すれば、該当する欲求因子を合成することによって、先に示した基本欲求(参加、変動、安定、自由)のそれぞれの重さが計算できる(図5参照)。こうして、ある人の欲求構造は、基本欲求それぞれの大きさとそれらの組合せによって決定されることになる。基本4欲求について考えられる組合せの数は15通りであるから、最大15の欲求類型が得られる。こうして、一定の基準で類型化したクラスターをポテンシャル・ニーズ・クラスターと名付けたのである。

  1. 代表的なモデルとしては次のものがあげられよう。

    • カトーナの意思決定モデル(Katona, G., 1957)
    • ニコシアの消費者意思決定モデル(Nicosia, F. M.)
    • ハワード・シェスの購買行動モデル(Haward, J. A. and Sheth, J. N., 1968)
    • コトラーの購買プロセスモデル(Kotler, P., 1980)
    • 情報処理・経験的予測モデル(Holbrook, M. B. and Mirsehman, E. C., 1982)
  2. マレー(Murray, H. A.)の定義は次のとおりである。――欲求は、脳の中の力をあらわす構成概念であって、現存する不満な状況を変えるように、知覚・統覚・知的作用・意欲・行為などを、ある特定の方向に体制化する力である。
    H. A.マレー:「パーソナリティ」外林大作訳(誠信書房、1961年)
  3. 山田雄一他、「職場の人間行動」を参照(有斐閣、1978年)
  4. 西田、若林、岡田編「組織の行動科学」(有斐閣、1981年)
  5. 例えば山口昌男「文化と両義性」(岩波書房、1975年)
  6. H. A.マレー前提書による。
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