調査レポート
商品コンセプト開発のツール“CORE”④
4.ポテンシャル・ニーズ・クラスターの形成とそのターゲット化
前章において、生活者を全体としてとらえて欲求の構造を明らかにしたが、“CORE”ではさらに生活者を個としてとらえ、個の欲求の構造をパターン化しポテンシャル・ニーズ・クラスターを作成している。ポテンシャル・ニーズ・クラスターは各生活領域を通じて共通の基準によって作成されているので、各々の生活領域間での比較が可能である。
生活領域を総合的にみた場合では、安定欲求に特化したクラスターと、安定欲求と参加欲求が主体となっているクラスターが、それぞれ全体の4分の1の大きさを占める。マスとしても存在するこの2つのクラスターは共通に秩序化へのベクトルをもっており、新しい文化を形成するベクトルはもたない。ウエイトが小さくても、新しいニーズの探索に有効なクラスターを抽出して重点的に分析することが必要である(図12、左参照)。
生活領域別にポテンシャル・ニーズ・クラスターのウエイト構成は異なる。装(よそおい)の生活領域についてみると最も大きいクラスターでも全体の10%強を占めるにすぎず、この生活領域における欲求構造の多様化を示している。また自由欲求を主とするクラスターのウエイトが大きいことが特徴である。装生活領域におけるニーズの探索には、多様なクラスターのなかからどのクラスターをターゲットとして設定するか、さらに自由欲求を主とするクラスターのニーズをターゲットとしてどのようにとらえることができるかが課題となるだろう(図12、右参照)。
<クラスターと社会的意識・態度>
既述した通り、社会的意識・態度は欲求と深くかかわり合って形成されている。したがって、欲求のあり方のパターンによって形成されているポテンシャル・ニーズ・クラスターは、各々が特徴的な社会的意識・態度を持っている。
生活領域を総合的にとらえて作成されたクラスターのうち、4分の1のウエイトを占める安定・参加欲求主体のクラスターは全体の平均像に近い社会的意識・態度のパターンを示すものである。それに次いで大きなウエイトを占める安定欲求特化のクラスターは、社会的関心が低く保守伝統志向であり、自分の家族・自分の健康を重視し、自分相応の堅実な生活を志向するというパターンを示している。
この対極に位置するのが、変動・参加欲求主体のクラスターであり、社会的関心が強く情報に敏感で新しい現代的な暮し方を志向し、自分の生活にゆとりをもちながら人との交際やレジャーを重視し、生活全体の向上に努力するという極めて積極的なパターンを形成している。このクラスターに着目してその具体的な生活行動を分析することにより、新しい生活ニーズ探索のための多くの示唆を得ることができるのである。
<クラスターのターゲット化>
図13は装(よそおい)の生活領域におけるポテンシャル・ニーズ・クラスターを、当生活領域における充足状況によってポジショニングしたものである。
変動欲求を主とする各クラスターは常に現状に満足せず、より装に力を入れていこうというおしゃれに関心の強いクラスターである。その他のクラスターはある程度現状に満足し、したがって装生活への重視度合が低い。
装の生活領域を対象とするアパレル産業・化粧・トイレタリー産業におけるコンセプト開発の課題として、まず第一に装を重視するクラスターの新しいニーズを探索することが重要であることはいうまでもない。しかし、同時に、市場にあふれる衣服・化粧品・トイレタリー用品に飽和感を抱き関心を低下させている人々のポテンシャル・ニーズをとらえ、これを顕在化させることもまた、重要な課題であるといえよう。
ここでは第一の課題に対応して、装への関心が最も強い変動・自由欲求主体のクラスターに注目してターゲット化を試みることにしたい。変動・自由欲求主体のクラスターの社会的意識・態度の特徴は次の通りである
- 社会的関心はあまり強くない。まわりに気をくばるよりも自分の暮らし方や自分の時間を大切にする。
- 暮らし方の使い分けがうまく、仕事は仕事、余暇は余暇という割り切りがはっきりしており、レジャーへの関心も強い。
- 新しい暮らし方、モノの採用に極めて積極的であり、いつも生活に変化を求めている。
- 自分の感覚に自信を持ち、デザインや音へのこだわりが強い。
- 自分の生活に関係のある情報への関心が強く、また科学技術への関心が強い。
変動・自由欲求主体のクラスターは以上のような社会的意識・態度を特徴とするが、とくに次のような欲求因子が強くあらわれており、これがこのクラスターに対するSymbolic Value開発のカギとなる。 - よそおいを工夫し自分のものにしたい(創造欲求因子)
- 自分のよそおいを個性的にしたい(個性欲求因子)
- よそおいに変化をつけてみたい(変化欲求因子)
さらに、このクラスターの装の生活領域での行動特性・ショッピング行動・情報接触等の特性及び嗜好態度の変化を分析することによって、具体的な生活ニーズを明らかにすることができるのである。なお参考までに、このクラスターのデモグラフィック特性をみると、既婚男性・女性及び未婚の男性・女性がそれぞれ表1のような構成で含まれている。
“CORE”は各生活領域における欲求の構造・生活行動をクロスオーバーした分析ができることをシステムの特徴の一つとしている。例えば、装生活領域のこのクラスターがレジャー生活領域ではどのような欲求構造を持ち、どのような行動をしているか、また食生活領域ではどうかといった分析を行うことにより、新しいニーズ探索のためのターゲット・イメージをより広げていくことが可能になる。
<東京ディズニーランドのターゲット分析>
課題の新商品に対するターゲット分析の事例として、東京ディズニーランドをとり上げてみたい。東京ディズニーランドは日本における新しいレジャー施設として、1983年4月、注目のうちにオープンし、年間1000万人といわれている動員計画を超過達成する勢いにある。
われわれが実施した調査結果によれば、83年11月時点(オープン7ヶ月後)で首都30㎞圏における18~59歳人口の22%がすでに入場しており、51%が入場意向を示している。さらに、入場者の60%が1年以内に再度行きたいという意向を示している(図14参照)。
これらの結果から東京ディズニーランドが人びとに与えたインパクトが極めて強かったことをうかがうことができる。
図15は“CORE”で作成したレジャー生活領域におけるポテンシャル・ニーズ・クラスターが東京ディズニーランドに対して示した反応の強さであるが、変動欲求主体のクラスターの反応が極めて強いことが注目される。
ついで参加欲求を主にした各クラスターの反応が強い。先に分析した通り、レジャー生活領域においてはまだまだ充足意識が低く、新しい文化を形成するエネルギーとなる変動欲求は増加傾向を示しながらもそのウエイトは極めて小さかった。このポテンシャル・ニーズを引き出すに十分な努力がなかった供給サイドにも問題があったと考えられる。従来のレジャー施設は、マスとして存在している参加欲求をターゲットとしたものであったといえるが、東京ディズニーランドは変動欲求を主体とするクラスターのニーズをとらえ、このクラスターを影響集団として他のクラスターの新しいニーズを掘り起こした。
レジャー施設としての新しいSymbolic Valueを形成することで変動欲求というポテンシャル・ニーズを顕在化させたことが成功の要因である。
5.商品コンセプト開発のメジャーをつくる
いうまでもなく、商品コンセプト開発は創造的な作業であり、理論的なものでも、機械的なものでもない。しかしながら現在の厳しい環境の中で、企業は新しい付加価値の開発やその受容性を商品化の前段階で確認する作業を、科学的に、組織的にすすめていくことを必須としている。
“CORE”は次のような点で、これを可能にするリサーチ・システムである。
- 欲求の構造とその変化を測定すること、それらの意識や生活行動における現われ方を測定することによって、新しい付加価値開発のための基本的な知識、情報ソースを得ることができる。
- 任意のターゲット(ポテンシャル・ニーズ・クラスター)を抽出してコンセプト・テストを実施することにより、コンセプトの受容性を測定することができる。さらに、コンセプト受容度のクラスター間のギャップを分析することによって、コンセプト段階での需要予測が可能である。
- ポテンシャル・ニーズ・クラスターを「嗜好的感性」のフィルターを通すことによって、ことば、デザイン、メディア等に対するセンシティビティを測定できるので、新しいコンセプト表現開発の有力なツールとなる。
なお、こうした作業を既存商品のポジショニングと、そのインプルーブ化にも適用できることはいうまでもない。
われわれが提案するこのシステムは、ポテンシャル・ニーズ・クラスターの次のような機能を支柱としている。
- クラスターの意味づけが事前に、理論的になされているから、クラスターの解釈がしやすい。
- 記号化された欲求でクラスターが測定されているから、クラスターごとのポテンシャル・ニーズが明確である。
- コンスタント・サム方式の採用によって、クラスター化の作業が簡便になり、従来のライフスタイル分析におけるクラスターと比べ、きわめて“接近可能性”が大きい。
- クラスター化の条件が固定化されているから、クラスターの時系列変化を明確にとらえられる。
- 生活領域ごとにクラスターを作成し、そのポジショニング分析を行うことで、領域ごとの需要先行層をクラスターとして抽出できる。
- 生活領域ごとに共通の条件でクラスター化されているから、領域間をクロスオーバーした動態の分析が可能である。
以上、欲求を目に見える形にし、定量的なものに実体化することを基盤にした商品コンセプト開発への新しいアプローチを提案し、そのシステム化の内容を紹介してきた。われわれはこのシステムが企業における実践的、組織的運用のなかで、革新的な商品コンセプトの開発に有効に寄与するものであることを確信している。さらに各企業において課題としてとり上げられている、新しい企業コンセプト(C.I.)開発においても有効なツールとして適用することが可能であり、現在その適用開発をすすめている。
本稿はCORE開発プロジェクト・チームの研究成果を牛窪、太田黒の両名がとりまとめたものである。
(「ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス」’84.5 ダイヤモンド社)
会社概要
- ・会社名:
- 株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント
- ・所在地:
- 〒163-1424 東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー24F
- ・代表者:
- 代表取締役社長 五十嵐 幹
- ・資本金:
- 30,000千円
- ・設立:
- 1968年1月17日
- ・URL:
- http://www.rad.co.jp
- ・事業内容:
- マーケティング・リサーチの企画設計、実施及びコンサルテーション
経営・マーケティング活動の評価及びコンサルテーション
■本資料に関するお問い合わせ先■
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント
セールスプランニング部 坂根
TEL:03-6859-2281 e-mail:radnews@rad.co.jp
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<例>「牛窪一省 商品コンセプト開発のツール“CORE” より引用」
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