新シリーズ第10回「価格戦略とコンジョイント分析」

統計学の初心者が引っ掛かりそうな罠や、普通の実務書にはあまり書かれていないコツをとりあげる新シリーズ。今回は、価格設定に役立つ「コンジョイント分析」のお話です。

やさしい統計学講座 ~教えて朝野先生~

R&D技術顧問 朝野熙彦(学習院大学)

第10回 価格戦略とコンジョイント分析

Q.あるメーカーからコンジョイント分析を使った製品計画の調査を頼まれたのですが、価格は自社で決められないので、コンジョイント分析で扱わなくていいとクライアントに言われました。価格を分析属性に入れなくて大丈夫でしょうか?

A.(朝野先生)価格を分析属性に入れることで何ができるかを理解することが大切です。具体例をもとにプライシング戦略にコンジョイント分析をどう使えばよいかを説明しましょう。

■ 価格戦略

 コンジョイント分析はそれだけで1冊の本が必要なほど豊富な内容があります。やさしい統計学らしく、その中から価格戦略に絞ってコツを話しましょう。最初に価格を分析しても仕方ないという意見から検討します。その論拠は概ね次の3パターンです。

A. 競合品に対抗してプライシングせざるを得ないので、自社で計画しても意味がない。
B. 製品の仕様から製造原価が決まり、それに利益を上乗せして出荷額が決まる。だからプライシングを考える余地がない。
C. 小売店が小売価格を決めるので、メーカーが希望を言っても仕方ない。

 いずれもコモディティ製品に当てはまりそうな意見ですね。そうはいってもマーケティングの基本は顧客志向です。顧客にとって価値ある製品を生み出し、その価値に見合った価格を提案するのが原則です。とくに新機軸を含んだ製品開発では、価格を戦略的に決めることが大切です。

■ 製品開発のためのコンジョイント分析

事務機器の某大手メーカーが一般オフィス向けデジタルPPC(複写機)の製品設計にコンジョイント分析を適用した例を紹介しましょう。調査で設定した分析属性を表1に示します。表1の属性のすべての組み合わせで連関係数がゼロなので、属性は直交しています。この属性水準を割りつけたコンセプト・カードを図1に示しました。

表1 コンジョイント分析の属性・水準一覧表

水準 水準1 水準2 水準3
属性
1 占有幅 580mm 800mm 980mm
2 属性A a1 a2 a3
3 属性B b1 b2
4 コピースピード 20cpm 15cpm
5 価格 50万 65万 80万
6 属性C c1 c2 c3
7 排紙面 裏面排紙 表面排紙

(出所)朝野(2002)

image01
図1 18枚のコンセプト・カード

■ 属性水準を貨幣価値に換算する

 分析結果の一部を図2に示します。効用(utility)の概念のままでは製品計画に使いづらいので、貨幣価値に換算します。図2から価格を65万円から50万円に変更すると、部分効用値(part worthを略してimage06)はimage05アップします。すると比例計算から1image06が16.67万円に相当することが分かります。image06は属性間で変化差を比較してよい尺度値です。そこで複写機の占有幅を80cmから58cmに変えた時の価値の増加は、
image03(万円)として貨幣価値に換算できます。

image02

図2 部分効用値関数

新製品を競合品より22cmコンパクトにできれば、競合品に対して26万円以上の価格競争力が得られます。ということは新製品を競合品より10万円高く設定したとしても、ユーザーはまだ割安感を感じるはずです。これこそが戦略的なプライシングです。シミュレーションは予め設定した水準に限定されません。80cm70cmにすれば12万1千円の価値に当たるというように任意の中間レベルについても補間推定できます。サイズの1cm減が12123円に相当するからです(注1)。

■ 製品化の決断

 樋口氏ら (1997)は、コンジョイント分析を踏まえて製品化を決定しました。排紙トレーを無くして複写機の胴内に排紙する方式にした結果、奥行き550mm×幅580mmのスペースにPPCが設置できるようになりました。これは、従来の同クラス品と比べて30%の省スペースになります。この複写機を複数台導入することでオフィスに新しいスペースが生まれます。省スペースはビル賃料の抑制にもなります。たとえば坪単価1万円のオフィスで3年契約なら1坪の削減は36万円の価値を生みます。
 某メーカーの複写機は発売後ヒット商品になりました。その意味で同社の調査は、課題解決型のリサーチの典型例といえましょう。

■ コンジョイント分析の意味

image06を顧客に直接質問すればよいではないか、という疑問がわくかもしれません。けれども、このような自己申告のアプローチは、これまで幾度となく否定されてきた方法です。
1)属性と水準の効用値を数量で回答することは購買者自身にも無理である。
2)人は建て前を答えるので、意見を真に受けて製品開発をしてはならない。
 顧客は本音を言わないから調査しても無駄だ、というのは製品開発の担当者がしばしば口にすることです。
それに対するコンジョイント分析の答えは、意見を聞かない、理由も聞かないという方針です。選択結果だけを使って顧客の本音を推定するのがコンジョイント分析です。つまりコンジョイント分析とは質問票で行う模擬ショッピング実験だという認識が当たっています。
 コンジョイント分析の価値は、仮想的な製品空間をユーザーに提示して、顧客価値を推定することにあります(注2)。水準を変更した効果を価格換算できるのが醍醐味です。もし価格を分析属性に含めないで選択を行わせたら、購買のリアリティを失わせることになり、調査の信憑性そのものが失われます。回答者がそれぞれ勝手に価格を憶測して買い物してください、などという調査をしても意味のある選択データは得られないでしょう。

(注1)直線補間ではなく対数関数や多項式をあてはめて内挿することもあります。今回は統計学の初心者向けにシンプルに説明しました。
(注2)厳密に言えば、提示した製品空間が直交しているからシミュレーションが可能になるのです。図1の割り付けにはアデルマンの非対称直交配列を使いました。そのような技術的な詳細は調査のプロに聞いてください。

引用文献

  • 朝野熙彦(2002)コンジョイント分析を用いた新製品の開発、「多変量解析実例ハンドブック」朝倉書店,446-454.
  • 樋口正美・轡田正郷・小櫃知克 (1997)コンジョイント分析を活用した商品企画・開発,日本品質管理学会第27回年次大会研究発表要旨集,27-30.

【今回のまとめ】

  • コンジョイント分析とは模擬ショッピング実験である。
  • コンジョイント分析の価値はシミュレーションにある。
  • 分析属性に価格を入れることによって、水準の変更が何円の価値に相当するかが推定できる。

《朝野煕彦教授 プロフィール》

1969年 千葉大学文理学部卒業後、マーケティング・リサーチの実務を経て、1980年埼玉大学大学院修了。筑波大学特別研究員、専修大学、東京都立大学、首都大学東京教授、中央大学客員教授を歴任。学習院マネジメントスクール顧問。日本行動計量学会理事。日本マーケティング学会監事。「ビジネスマンがはじめて学ぶベイズ統計学」「マーケティング・リサーチ プロになるための7つのヒント」「ビッグデータの使い方・活かし方」「アンケート調査入門」「マーケティング・サイエンスのトップランナーたち」など著書多数。
株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメント技術顧問。

朝野煕彦

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